まだ暖かいカフェオレ

 

 

 

時間は遡って20歳の冬の話

 

 

 

 

その頃は私が彼氏と付き合い始めて半年ほど経った頃だった

 

年末でみんな地元に帰省してきていた

 

 

夜、あの人からメールが来た。

ドライブでも行かない?って

 

付き合っている彼に悪いなって思ったけど、

私はあなたに会うことにした。

 

もうすでに日付を越えてしまいそうな時間だった。

あなたは車でうちの前まで迎えに来た。

 

助手席に乗ると、あなたは買っておいてくれたまだ暖かいカフェオレを私に渡した。

 

その日はすごく寒かった。

狭くてなにもない街をあてもなく車で走り、

時々外に出てはあなたの吸う煙草の白い煙を見ていた。

 

 

 

 

 

あなたとそれまでなにを話したのか

全く思い出せないよ

 

 

 

 

海の駐車場に車を停めるとあなたは言った

俺の真剣な悩み話してやろうか

 

 

 

彼が何か私に伝えようとしているということがわかって、

雰囲気が重くなって話しづらくならないように、なるべくいつも通りを装っていた

 

 

 

あなたが何を言ったって引かないよ。

人殺したって言っても引かない。

私がそう伝えると彼は少し笑ったけど

私は大真面目にそう言った

 

 

 

あなたは何度も何かを私に伝えようとしては、口を閉ざした

 

 

 

私は助手席で、高校の頃彼が部活の時に着ていたジャンパーコートを膝にかけて、

その袖をまくったり戻したりしていた。

彼のお兄さんの名前が袖に刺繍されていて、それが彼のものではないことを初めて知った。

 

 

 

 

ようやく彼は口を開いた。

私の頭の中で予想した言葉と全く同じセリフが彼の口からそのまま聞こえた。

 

 

それはずっと彼が抱えてきた悩みだった

痛みだった

 

 

 

ずっと、苦しかった?

彼は向こうを向いてうなずいた

 

その悩みは誰にも、本人にもどうすることもできないものだった

 

 

私があなたのこと好きだって知ってたからずっと言えなかったけど

私が他の人と付き合いだしたって知ったから

きっと安心して話してくれたんだね

あなたは心の優しいひと

 

 

お前にはもうあいつがいるんだからいいじゃん

と言われて何も言えなくなってしまった。

 

 

 

いっそまだあなたのことを愛していて

打ちのめされた方がマシだったかもしれないと

思った。

 

少しだけでも彼の痛みを分かった気になったかもしれない。

 

 

ごめんねずっと気付いてあげられなくて

あんなにあなたのこと見てたのに

 

 

あなたのことを抱きしめたくなったけど

それはできなかった

 

 

朝方家に帰って

眠れない頭にあなたの声が響いていた

 

あなたにもらったカフェオレはもったいなくて飲めなくて

もらった時はまだ暖かかったのに

冷蔵庫に入れた

 

ごめんね