ひとりでも

30年近く生きてきて初めて、一人旅というものに行きました

行き先は鹿児島です

 

先月行った占いで、

南の方角、そうねぇ、鹿児島なんかいいんじゃない?吉方旅行って言うんだけど。行っておいで。できれば一人でね。そしたら気持ちも晴れてくるよ。

とお告げをいただいたのでした

 

 

 

 

鹿児島に行ったのは小さい頃に一度だけ

車の後部座席に姉と座っていると、前にいた両親が

ほら、見てごらん!あれが桜島だよ!

と騒ぎ立てたので、

なんだかわかんないが珍しいものなんだろう、と幼心に思った、という思い出だけが残っていた

 

 

 

新幹線に乗り、鹿児島中央駅で降り、近くのレンタカーでパッソを借りて、出発した

 

 

パワースポットに行くと良いよ。

と例の占い師から言われていたので、霧島神宮というところに行くことにした

 

霧島神宮の鳥居をくぐった瞬間、しん、として緑の匂いと音がした

2礼2拍手1礼

正解なんだろうか、後ろの人に早くしろよって思われてないだろうか、という、人の目を気にするいつもの悪い癖が邪魔して、ろくに神様に願うことも誓うこともせずに、お賽銭を200円入れてその場を降りた

おみくじをひくと大吉だった

 

霧島の温泉巡りを終え、指宿に向かった

霧島から指宿は車で2時間以上かかるので大変だということはわかっていたけど、どうしても指宿に行ってみたくて、車を走らせた

18時を過ぎるともう外は暗く、せっかくの指宿の海の景色も見えることなく、少し眠気と戦いながら気力で運転していた

 

予約していた指宿の宿は、素泊まりで5000円ほどの、コテージのようなところだった

目的地に近付くにつれ、街の明かりはなくなっていき、前も見えないほどだったのでハイビームをつけた

 

やっと到着した宿は、手作り感満載で暖かい雰囲気だった

手作りで小さな灯りを灯しているだけなので、周りが全く見えず、駐車場がどこなのかもわからず、右往左往して、とりあえず敷地内の広い場所に停めた

 

フロントのある棟に行きインターホンを鳴らすと、仙人のようなおじいさんが出迎えてくれた

これ、読んでくれた?と一言目に言われ、おじいさんの指差した机の上にある案内に目を落とすと、

『虫が出ます』と書いてあった

 

今の若い人はね、とくに女の人の一人旅なんかじゃ、ちょっと虫が出ただけでキャーキャー騒いでね。

田舎なんだから、当然なんだよね。

あなた、大丈夫?

 

うわぁ、と心の中で正直思ったけど、

田舎育ちなので大丈夫です!と笑った

 

それ聞いて安心した。

とおじいちゃんは初めて笑った

 

あなた、車どこに停めたの?

 

あ、車停めたんですけど、場所がいまいちわからなくて、合ってるかわからないです。

 

え?書いてあったでしょ、何箇所も。

 

すみません、暗くてちょっと、よくわかんなくて、、

 

田舎はね、暗いんだよ。

それに、昔は、日が落ちる前に宿に来ることが当たり前だったんだけどね。

 

 

もう私はこの仙人に戦々恐々としていた

 

 

私が停めた車を見た仙人は、

え、ここから入って、こう、

ここに停めたの?

こんな人は初めてだ。

と言った

 

案内するからこっちに停めて。

と言われ、ずんずん歩く仙人の後ろを車でのろのろと付いて行った

 

明日の朝出る時は、フロントのテーブルに鍵置いて勝手に出てね。

他になんか聞きたいことある?

 

いえ、大丈夫です!と精一杯笑った

 

もうなんでもいいから早く部屋に入りたかった

 

部屋に入ると、昔ながらの家の匂いがした。

座ろうとすると後ろに気配を感じ、振り返るとヤモリが壁をニョロニョロと素早く移動したのが見えた

半分心がくじけたけど、そいつは窓の近くにいたので、窓を開けたら外に出てくれるかもしれない、という期待を込めて、そっと開けた

すると窓のふちにいた別のヤモリが床にボトッと落ちてニョロニョロと動いた

咄嗟にギャーッと叫んだ瞬間、

『女の人の一人旅では特に…』と話す仙人のしかめた顔と、『それ聞いて安心した。』と笑った顔が浮かび、両手で口を押さえた

 

それでももうこの場所にはいられない、と思い、そっと部屋をあとにした

 

近くのネカフェにでも泊まろうと思い、車を走らせたけど、夜の指宿は暗く、店も見当たらなかった

 

半泣きで、急いで検索し、鹿児島市内のビジネスホテルをおさえた。

そこからまた先程の宿に戻り、そっと鍵をフロントに置き、その場を去った

ごめんねおじいちゃん

 

ビールでも飲みながら黒豚を食べたい、という願いもむなしく、後ろの車に煽られながらようやく鹿児島市内に到着した頃には飲食店は閉まってしまっていた

仕方なくホテルの目の前のセブンイレブンでビールと酎ハイを買い、カレーを食べた

 

 

気を失ったように眠り、朝目を覚ますと雨が降っていた

せっかく市内に来たし、展望台に登って桜島を見ようとか、西郷隆盛の像を見に行こうとか思っていた気持ちは崩れてしまった

 

ガイドブックを開き、あぁそうだ、

水族館があった。

ジンベエザメのいる水族館だ!

と気づいたら体が動き出し、すぐに準備して外へ出た

モーニングのあるカフェを見つけて入った

とても、とてもおいしいライ麦パンを食べた

 

 

エスカレーターを上がるとすぐに大水槽があり、ジンベエザメが悠々と泳いでいるのが見えた

名前は「ユウユウ」だった

来て良かった、と心から思った

 

 

お土産を選ぶのに四苦八苦し、

レンタカーを返しに行った

ありがとうございました、と言うと

大丈夫ですか?と言われた

ぶつけたりすることもなかったので、大丈夫です。

と笑うと、

いえ、ご自身がですよ。

と、店員の女性は雨の降る外を指さした

駅、近いので急いで行きます

と言うと、ビニール傘があるかもしれないのでちょっと待ってください、と探し始めたので、

返す機会がないからいいですよ、と言うと、

プレゼントです、と透明の小さなビニール傘を手渡してくれた

お気をつけて。

と言われて思わず涙目になってしまった

ありがとうございます。お世話になりました。

と頭を下げた