雨の中のバス
あの頃、という言葉で思い出すのはいつも17歳くらいの私です
大人になってから何度
あの頃に戻りたいと思ったでしょうか
どんなに願ったって絶対に過去に戻ることはできない
それは悲しいくらい思い知らされてきたこと
あの頃、その人への気持ちに気付いた時にはすでにもうどうしようもないほど溢れ出ていて、気付いた、というよりもう認めざるを得ない、という感じだった
今まで生きてきて、こんなに1つの感情に心を支配されたのは初めてで、今の自分から見てもそれは後にも先にもそれだけでした
高校に入ってからなんとなく大人しくなったあの人を私はいつも目で追っていました
私はわりと人の感情に敏感なほうなので、友達なんかの考えてることや機嫌とかすぐにわかってしまうほうだったのだけれど、あの人のことになるとわからなかった
何か悩みがあることは想像がついていた
四六時中見ていてもそれが何かはわからなかったんだけど、、
でもその頃は、あの人に対する感情的な思いが、心配する気持ちをはるかに凌いでしまっていたのでした
あんなに相手のことを考えていたけど、実際は自分の感情に溺れすぎていて、本当のことがよく見えていなかった。
ごめんね。
あの頃はスマホもLINEもなくて、やりとりの手段はケータイでのメールだった
好きな人からのメールの着信音だけ変えたりしてた、、なつかしいね
私もよくあの人とメールしてた
毎日メールしたいけど、自分からばっかり送りたくない。だから送らずに、メールが来るのを待ったりする。
あの人からのメールの着信音が聞こえると身体中の動きが一瞬で止まる。
メールの内容はたいしたことなかったりする。
宿題のこととか。
でも夜中までやりとりが続いたりしてた。
学校でも話せると嬉しくて、相手の方から来てくれると尚更嬉しかった。
私はまるで小学生か中学生の男の子のように、嬉しくて仕方ない気持ちを必死で隠して、別に興味ないです、みたいなフリをしていた。
でもへったくそだった。
私は感情が顔に出てしまう。
隠せない。
あの人のことを好きだという気持ちを、あの人から気づかれないようにすることだけで精一杯だったので、周りのみんなからの目のことは全く気にしてなかった。だから気付いた時には、私のあの人への気持ちはみんなにバレバレだったのです。
私は人の感情を読むことに長けていたけど、それはあの人も同じか、私以上だった。
そんなあの人が私の気持ちに気付かないわけはなかったんです。
きっとずっとわかっていたんだろうな。
あの時私が口に出さなくても。
あの頃私は部活に熱中していました
私は自分の特技を生かした部活に入っていて、勉強なんか一切せずに、高校へは部活をしに行ってるようなものだった。
それは彼も同じで、彼は私と違ってスポーツが得意だったので球技系の部活のキャプテンでした
すごいがんばってた。
試合の前の日には夜メールしたりしてた。
「明日がんばってね」って。
そんなシンプルなセリフも面と向かってはなかなか言えなかった。
彼は試合に出て何度か怪我をした。
けっこうな怪我でした。
でも勝ったんです。
学校でそれを耳にした時はトイレですごい泣いた。
早く帰ってきて。
早く会いたいよ。
涙が止まらなくてタオルがびっしょりなったのを覚えてる。
もう試合の結果なんかどうでもいいから顔を見たかった。
数日後、包帯だらけの痛々しい姿で学校に来た彼の姿に、泣きそうだったけど、照れ臭くて優しい言葉1つもかけてあげられなかった。
そんな感じで高3になっていました。